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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(オ)905号 判決

北海道松前郡大島村江良一七五番地

上告人

油野長造

右訴訟代理人弁護士

登坂良作

被上告人

右代表者法務大臣

牧野良三

右当事者間の損害賠償請求事件について、札幌高等裁判所函館支部が昭和二九年九月六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨中「原判決に理由不備の違法がある」との主張について。

原審は所論自動三輪車一台の所有権喪失当時における市場価額が少くとも公売価額八万円以上であつたことを主張しその差額を公務員の違法処分行為による損害として賠償を求める本訴請求につき、右市場価額が公売処分の結果国の収納し上告人の滞納税金等の内入として上告人の利益に措置されたことにつき上告人の自認する金員と同額の金八万円であつたことを認定し、公務員の故意過失、公売処分と所有権喪失との間の因果関係の有無等に関する判断を為す迄もなく、上告人に所論財産上の損害ありと為し難い旨を判示して右請求を棄却して居るものであること原判決に明らかであつて、所論の点につき所論違法なく論旨には理由がない。

その余の論旨は原判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背を主張するものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小山勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

(参考)

○昭和二九年(オ)第九〇五号

上告人 油野長造

被上告人 国

上告代理人登坂良作の上告理由

第一点 第二審判決理由に曰く、

「差押の方法に関してこのような違法がある以上、本件差押はその効力を生じなかつたものと解すべきであり、惹いては本件の公売処分をも当然無効ならしめるものと云うべきである。」云云と判示されてある。

然らば上告人は右違法な処分によつて、本件自動三輪車が価額八万円で処分され、その所有権を不法に侵奪された結果になり損害を蒙つたことは明らかである。

然るに上告人の本件に於ける七万円の損害賠償請求が排斥せられるのは理由不備というべきである。

第二点 本件物件の競売当時に於ける価額に関し上告人は十五万円で引受人があるというのに、渡島税務署は見積価額を七万円と定めて違法な公売に付し、その結果は八万円で第三者に処分されてしまつたが、由来遍地に於ける差押公売による価額が、実際の一 般値段より低廉なことは実験法則上明らかな事実である。もしもかかる違法な公売手続によつて処分されなければ、上告人は本件物件を十五万円に売つて、それだけ納税し得るのである。納税成績上よりするも、納税者の負担よりみるも失当なことである。

一歩をゆづつても違法な公売によつて、八万円で処分された事実が認定されてある以上、上告人は本件物件の所有権を侵害され、少くとも八万円の損害を蒙つて居ることは明らかなことがらであるのに、第二審判決は、上告人に何等の損害なし、と判示されることは理由齟齬である。

第三点 上告人が租税債務を負担して居るから、渡島税務署はその債務に対して、売得金八万円を収納したというのかも知れないが、違法無効な差押公売によつて、八万円が自然に、税務署に帰属する理由はないのであるから、上告人に於て損害を蒙つて居らないと判決することは法理上不備である。

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